4月27日(土)
ゴールデンウィークの前半、安西水丸氏の「ちいさな城下町」に登場する朝倉市の秋月に行くことにする。
熊本は神風連の乱、朝倉は秋月の乱ということで、学生時代からなんとなくシンパシーを感じていたが、安西水丸氏の秋月城についての文章を読んで、いつかは行かねばと考えていた土地である。
本来、このGWは近畿地方の100名城巡りを計画していたのだが、前半と後半の間が3日空くと、なかなか長い休みにならず、近畿地方の100名城を回るのは困難と判断。それならば、この機会に、いつか行こうと思っていた秋月に行くことにした。
ついでに、福岡方面に行くのならば、少し遠回りにはなるが、やはり長浜ラーメンにも行かねばならない。
とは言うものの、今年のGWはなかなか天気が定まらず、特に前半は、雨や曇りが多く、当日朝も朝5時に起きたら、土砂降りで、いきなり気持ちが萎え、思わず二度寝。
8時に再び目を覚ますが、まだまだ、なかなかしっかりとした雨。
しかし、もう出発しなければ、今日の予定が完遂できない。もぞもぞと革ジャンを着て、その上にさらに雨具を着て、長靴を履いて、完全防備で、いざガレージを出ると、なんと雨は止んでいた。
一時的なものにしても、完全防備の今となっては、うれしいような悲しいような気分のまま、9時に人吉を出発。人吉ICから高速に乗る。
八代ICで降りて、国道3号線を北上。結局、雨は降らず、空も明るくなり、このまま持ちそうな予感。
ただ、GWのせいか、国道3号線はやたら車が多く、渋滞とまでは言わないものの、だらだら走るしかない。雨具でムシムシするしで、フラストレーションがたまる。
松橋ICから再び高速に乗る。
緑川PAで雨具と長靴を脱ぐ。爽快。
ノンストップで走る。暑くもなく、寒くもなく、自分のスピードで気持ちよく走る。
バイクで初夏の日差しのやわらかい風を受け走っていると、4月からのあわただしい毎日の中でたまった自分の体の澱や殻みたいなのが、少しずつ溶けていくような、剥がれていくような、そんな感覚がある。
バイクに乗っている人には、多分同意してもらえるんじゃないかな。
大宰府ICから都市高速に乗る。
頭の上を飛行機が何機も飛ぶ。空港へ着陸したり、空港から離陸したりするのが見える。
今日は、都市高速も車が多い。
天神北料金所でおり、長浜通りを走り、いつもの駐車場に止め、長浜家まで歩く。
今日はスープが少しぬるい。まあ、これが長浜ラーメンだ。よしとする。
あっという間に食べた終え、出発。
博多滞在時間わずか20分で、博多をでる。
国道3号線を南下、大宰府を過ぎ、筑紫野市から3桁国道に入る。
筑前町の田んぼ道を走っていると、やがて、道路標示に秋月の文字が見えてきた。
山がだんだん近くなる。
家並みが途切れ、山裾の田んぼばかりの細い道を走る。
横に川がでてきた。
これが小石原川だろう。
秋月は、安西水丸氏が言うように、大きな山に囲まれた、ほんとに小さな町だった。
集落といった感じか。
その鄙びた町並みをちらほら観光客が散策している。
「ちいさなお城」にも登場する眼鏡橋を過ぎ、町の有料駐車場にバイクを停める。
バイク200円。
そこから少し歩くと、桜の馬場に出た。
城下町の幅の狭い道の両脇に、ずっと桜並木が続く。
新緑の季節の桜も美しい。
静かだ。
やわらかな風が吹く。
桜の葉が風にそよぐ。
その中を、革ジャン、ブーツ野郎が歩く。目を細め、なにやらノスタルジックな顔で歩く。
周りから見たら、すごく場違いであろうが、非常に落ち着いたいい気分である。
長屋門をくぐり、秋月中学校の校舎を眺める。
なるほど、安西水丸氏が書いていたように、よい雰囲気の校舎だ。
昔の五木東小学校の木造校舎のようだ。
城の黒門をくぐり、神社の下に立つ。石階段を覆うよう緑の木々がみずみずしい。
石垣の向こうに古処山が見える。
秋月博物館に入り、秋月の歴史を学ぶ。
秋月も教育に力を入れた藩のようだ。やはり小さな藩にとって教育は藩の将来をかけた大事業だったのだろう。
排出する人材が藩の未来を左右するのだ。
そして、それは、今も同じではないか。それをないがしろにする行政に、町に、国に未来はないのではないか。
桜馬場の長椅子に腰掛け、風に揺れる桜の木々を眺めながら、そんなことを思う。
ソフトクリームが食べたかったが、我慢した。
田代邸や久野邸の武家屋敷や豊臣秀吉も腰掛けたという太閤石を見物し、駐車場に戻る。
自動販売機でコーヒーを買い、バイクにまたがったまま、秋月の町を眺める。
安西水丸氏が書いていたように、今度は桜の季節に来てみたいと思った。
最後に、眼鏡橋で写真を撮り、小石原川に沿って、秋月の町を離れた。
交差点で信号待ちの時、秋月の町を振り返り、もう一度、町の後ろにそびえる古処山を見た。
時間は4時を過ぎていた。
今日宿泊するうきは市の“ほたるの里キャンプ場”を目指す。
少し気温が下がり、夕方の空気になってきた。
大きな寺内ダムを眺め、筑後川と並走して走る。
原鶴温泉のホテルが見えた。
うきは市内のドラッグストアで、食料と飲み物を購入。
CCバーに括り付け、スマホを頼りに、山の中に入る。
“ほたるの里キャンプ場”というだけあって、結構山を登る。
“ほたるの里キャンプ場”は廃校になったちいさな学校と川を挟んで向かい側にある小さなキャンプ場で、すでに2組のグループがいた。
1つは5~6人のグループでバーべキューで盛り上がっていた。
もう1組は親子と思しき男性2人組だ。
父親60歳、息子30歳といった感じで、テントはすごくでっかかったけど、なんかひっそりとしている。
手早くテントを立て、テントに荷物を放り込み、椅子を広げ、ビールを開ける。
ビールを飲みながら、持ってきた文庫本を読む。
調理はしない。焚火もしない。
風の音や鳥の鳴き声を聞きながら、ビールを飲み、ただ本を読む。
ビールが終わったら、ウイスキーを飲み、暗くなったらヘッドライトで本を読む。
寒くなったらテントに潜り込み、本を読む。
これが僕のキャンプスタイルかなと思う。
今日読む本は、前出の安西水丸氏の「ちいさな城下町」である。何度読んだかわからないが、今日は、朝倉市のところを読み返す。
今行ってきた場所のことを、復習するような感じで、楽しい。
夕食に、カップ焼きそばを食べる。
日が暮れる。
いつの間にか寝てしまう。