5月5日(日)
朝、4時30分に目を覚ます。
まだ夜明け前。
薄暗い海に、波の音が静かに聞こえる。
遠くの造船所に小さな灯りがぽつりぽつりと見える。
引き締まった朝の空気を今日も胸いっぱい吸い込む。
まだファミリキャンパーはだれも起きていない。
お湯を沸かし、コーヒーを飲む。
さあ、最終日だ。
今日で四国ともお別れ、九州に戻る。
パッキングを終わるころ、ようやく陽がのぼりはじめた。
瀬戸内に登る朝日。
もうしばらくは見ることはないだろう。
穏やかな白い海からオレンジ色の朝日がぼんやりと顔を出す。
5時45分、出発。
今日はまた、ロングライドだ。
ほとんど人通りのない道を今治に向け走る。
巨大な橋が見えてくる。
しまなみ海道だ。
ICを通過し、しまなみ海道の本線に乗る。
左手に今治の街が見える。
さらば、四国大陸だ。
本線はすぐに橋になり、瀬戸内の島々を縫うようにつながっている。
ずっと向こうの島に架かる橋まで見通せる。
素晴らしい眺めだ。
ただ、風が冷たく、寒い。
途中パーキングでトイレ休憩。
もう四国大陸ははるか後方、目の前の本州を目指す。
因島を通り、向島に渡った。
1泊目、テントを張った小さな海沿いの公園が橋の上から見えた。
あれからもう一週間経ったんだ。
この一週間、ずっと走り続け、四国を一周し、ここまで戻ってきたんだ。
そう思うと、旅の終わりを感じる。
西瀬戸大橋を通り、本州に入った。
しまなみ海道の終点は尾道の山側に走るバイパスのような道と合流しており、
そこから2号線に入り、あとは、行きに走った道を今度は戻る形でひたすら南下する。
寒い。
三原市を過ぎたところでコンビニに入り、イートインでスープデリを食べる。
そのあとは、ひたすら2号線で山間地域を走る。
トラックが多い。
道はやがて広島市に入り、そのまま街を通過し、廿日市市に入る。
宮島へ続く道は大渋滞で、すり抜けながら進む。
岩国市では、どうやらアメリカ空軍基地のお祭りがあっているようで、そのパレードを避けるように街を離れ、錦帯橋の脇のコンビニで休憩。
もう一度スープデリを食べる。
このころからようやく日差しが暖かくなってきた。
錦川の向こうの山の頂上に岩国城が小さく見える。
ずっと昔、家族旅行で登った。
岐阜城に行った時も思ったが、よくもまあ、あんな高いところに城を築いたものだと思う。
岩国を越え、さらに九州を目指して、ひたすら2号線を走る。
徳山の石油プラントを左手に眺めながめる。
山口は本当に道がいい。
バイパスが高速みたいだ。
防府市を通過。
行きにリストバンドを買ったワークマンのお店を見つけ、ああここだったなあと思い出す。
防府のガソリンスタンドで給油。
防府を越えたあたりでどこをどう間違えたか、山口宇部道路に入ってしまい、宇部市に行ってしまった。
少し遠回りをしながら2号線に戻り、さらに進むとやがて、海越しに関門海峡と関門橋が見えた。
下関市に入り、100円払って関門トンネルをくぐり、九州に上陸したのが午後2時20分。
随分時間がかかった。
ようやく九州到着だ。
門司港を右手に眺め、小倉駅前を通り、さらに3号線を南下する。
2号線を走りなれると、3号線は走りにくくて仕方ない。
道は狭く、くねくねしているし、交通量は多い。
暑さと疲れでぐったりするものの、そのまま福岡市に入り、お約束で長浜ラーメンを食べ、一息つく。
再び、3号線に戻り、大宰府ICを目指す。
都市高速でもよかったのだが、久しぶりに大宰府までの下道を走ってみたくなった。
学生の頃、やはりエイプハンガーを付けた400ビラーゴでよくこの道を走った。
とは言え、そんな感傷に浸る間もなく、夕方の渋滞が始まり、なかなかすり抜けることもできず、
くたくたになりながら、ようやく大宰府ICから九州道に乗る。
高速もすごい混みようで、渋滞まではいかないものの、三車線、いずれも車でびっしりという状況だ。
木山SAは満車で、SAに入る車の列がずっと連なっている。
久留米を過ぎたあたりで、ようやく車の数もずいぶん減ってきた。
いよいよ夕方の気配が高速道路にも満ちてきた。
ノンストップでひたすら南下する。
氷川付近ではすっかり夕暮れの中、有明海に沈もうとする真っ赤な夕日が見えた。
対向車線の車がみなヘッドライトをつけている。
もうすぐ旅も終わる。
泉谷しげるの「旅から帰る男たち」が思わず口をついて出る。
陽も落ちて、真っ暗な中の八代人吉間を走り、午後8時、人吉ICに到着。
人通りのすっかりなくなった人吉の街を通り、午後8時10分、自宅着。
すっかり日焼けし、髭の伸びた姿を見て、家族が驚いた。
5泊6日の四国旅、終了。
無事到着だ。
この旅を通して、いろんなことを考えた。
48歳という50歳を目の前にして、久しぶりに自由に使える時間ができ、
その時間をどう使おうと考えたときに、オートバイで遠くへ行きたいと思った。
大学生の頃は日本一周をした。
オートバイでどこへでも行けた。
金はなかったが時間はあった。
20歳か21歳のころだ。
それからずいぶん時間が流れ、自分自身もずいぶん錆びついたと思う。
しかし、今の自分がどこまでできるか、テント泊なんてここ数年まったくしていなかったし、バイクのロングライドもいつ以来だろう。
そんな不安もあったが、やってみてよかったと素直に思う。
もちろん、たかだか一週間程度の旅で、自分自身に何か変わったということはない。
あたりまえだ。
ただ、正直、まだまだやれるという自信は持つことができたと思う。
それが今回の一番の成果だなのだろう。感謝。
【走行距離 641km】
【全ルート】